コラム&レポート

西沢事務局長コラムvol.2|海藻に含まれる食物繊維が、日本人ならではの腸内細菌叢と関連?!

2010年、Nature誌に日本人がびっくりする研究がフランスのチームから発表されました。

それは、ほぼ日本人の腸にのみ、高頻度で海苔の発酵性食物繊維であるポルフィランを代謝する酵素を持つバクテロイデス・プレビウスというバクテロイデス属の菌がいるのに、北米人にはほぼ存在しなかったという内容でした。

これは、日本人が海藻を常食していて(1日約14.2gと記しています)、海苔は伝統的に寿司に使われてきた最も重要な海藻だからだというのが考察です(Nature. 2010 Apr 8;464(7290):908-12.)。

あれから15年。慶應義塾大学のチームが、同じ海苔のポルフィランに関する論文を発表しました。マウスの試験ですが、ポルフィランを与えると、高脂肪食でも肥満、糖尿病、肝細胞がんなどが抑制されたというのです。その背景には、腸内細菌叢が改善されてバクテロイデス属の菌が増え、良い胆汁酸が多くなるといった好循環があるとのこと。

胆汁酸は肝臓で作られて、腸管内に分泌され脂肪消化を助けますが、これが腸内細菌に代謝されると、炎症や肝細胞がんなどのリスクになることもある二次胆汁酸が作られます。ポルフィランはこの二次胆汁酸を減らしたというのです。

また研究チームは、色が抜けて廃棄対象になる海苔にポルフィランは多く含まれるから、抽出源として使えるのでないかという提言もしています(iScience. 2025 May 7;28(6):112603.)。

腸内細菌と海藻の発酵性食物繊維に関する話をもう一つ続けます。

このところ、腸粘膜のエネルギーになるだけでなく、多くの効能をもたらすとして腸内細菌が作る短鎖脂肪酸の酪酸が注目されています。そして代表的な酪酸産生菌の一つ、フィーカリバクテリウム菌では炎症性疾患抑制や免疫維持から精神的安定、子どもの成長、健康寿命にまで、広い機能性が報告されています。

ここからが海藻の食物繊維に関わる話なのですが、昆布をはじめとする海藻に多い発酵性食物繊維のアルギン酸が、著しくフィーカリバクテリウム菌を増やすという報告が、森永乳業の研究チームから発表されているのです。ただし、直接フィーカリバクテリウム菌がアルギン酸を使うわけではなく、バクテロイデス属の菌がアルギン酸を利用し、その代謝物でフィーカリバクテリウム菌が増えるというクロスフィーディング(菌による栄養連鎖)が行われている、というのがおもしろいところ(Food Res Int. 2021 Jun:144:110326.)。

バクテロイデス属の菌が出てきたことで、先に挙げた海苔のポルフィランに関する報告ともつながってきますね。

ほかにも、海藻にはラミナラン、フコイダンなどの発酵性食物繊維が含まれますが、こうした複数の海藻由来発酵性食物繊維が、チームとして日本人の腸内細菌叢に果たしてきた役割は大きいといえそうです。

Writer 執筆者

西沢 邦浩 事務局長

西沢 邦浩 事務局長

  • 一般社団法人 発酵性食物繊維普及プロジェクト 事務局長

1991年日経BP入社。2005年より「日経ヘルス」編集長。2008年「日経ヘルス プルミエ」編集長に。2016年より日経BP総研主席研究員。2018年、株式会社サルタ・プレスを設立し代表取締役、日経BP総合研究所客員研究員。ほかに、同志社大学生命医科学部委嘱講師、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所理事などを務める。

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